インドネシア出身の中央銀行職員Wahyunindia Rahmanさんは、仕事をいったん離れ、公共政策大学院(GraSPP)で経済政策・金融・開発の専門性を磨いています。2年間の学びの総仕上げとして、2児の母である彼女は現在、統計モデルを開発する修士論文に取り組んでおり、それが母国で効果的な金融政策を実施するために活用されることを願っています。
Rahmanさんは、東南アジアの国インドネシアの中央銀行であるインドネシア銀行(Bank Indonesia)での自身の仕事を十分に理解するには、より深く具体的な知識を身につける必要があると実感し、GraSPPの国際プログラム(MPP/IP: Master of Public Policy, International Program)に出願することを決めました。
それは、情報技術企業の経理部門で働くなかで何かが足りないと感じた末にたどり着いた仕事でした。西ジャワ州バンドンにあるパジャジャラン大学の学部で会計学を専攻していた彼女にとって、経理の仕事に就くのは自然な道でした。経済成長を持続させるために通貨を安定させる役割を担う、国の金融当局である中央銀行で働けば、社会に何か貢献できるかもしれない——そう考えたRahmanさんは応募し、数か月にわたる選考を経て採用されました。
中央銀行での6年間、Rahmanさんはジャカルタ本店でインドネシアの金融安定の維持を担う部署に勤務したほか、バンテン州の駐在事務所では、金融システムにアクセスできる人々を増やす業務などに携わりました。仕事は面白いものでしたが、仕事への興味が深まるほど、学部時代に入門レベルでしか経済学を学んでいなかったため、経済学の深い知識が足りないと感じるようになりました。中央銀行では業務遂行を支える研修が毎年用意されていましたが、彼女は自分の仕事についてより深い理解を得たいと考えていました。
「知識を深めるため、特に経済学と金融の分野で、経済政策の修士号を取得しようと決めました」とRahmanさんは語り、「知識を得ることで、より大きな貢献ができるようになればと思います」と続けました。
学部時代に短期旅行で訪れた日本の楽しい思い出もあって、Rahmanさんは日本国内で自分に合った修士課程プログラムをウェブで探し、英語によるGraSPPの国際プログラムに出会いました。
「理論からケーススタディまで多様なプログラムが提供されています。経済学研究科など、他の研究科のプログラムも履修できます。だからGraSPPに入れば、(経済学の)理論的な学びと(公共政策の)実践を組み合わせられると思ったのです。それがGraSPPを選んで出願した理由で、幸運にも合格できました」とRahmanさんは説明します。
2021年1月のインタビューで、公共政策大学院で学ぶために来日した理由を語るWahyunindia Rahmanさん。
アジア開発銀行の奨学金を得たのち、勤務先から修士号取得のため日本へ派遣されました。2019年7月、2人の幼い子どもと夫とともに来日しました。
GraSPPでの1年目は授業の履修が中心で、その内容はミクロ経済学や統計的手法から、グローバルな金融政策立案や法律まで多岐にわたりました。2020年4月には、新型コロナウイルスの世界的流行により、すべての授業がオンラインに切り替わりました。授業のほかにも、教授陣はZoomでのオンラインオフィスアワーを設けており、学生は気軽に立ち寄って、研究やその他の悩みについて1対1で話し合うことができます。Rahmanさんは対面での交流を恋しく思いつつも、全体としてはすべて順調に進んでいると話します。
修士課程2年目となった現在、Rahmanさんは仲田泰祐准教授の指導のもとで修士論文に取り組んでいます。論文のテーマは、インドネシアのための金融マクロ計量経済モデルの開発です。これは、経済状況のシミュレーションや予測に用いられる統計モデルです。このモデルは、例えば利上げの影響——消費を増やすことになるかどうかなど——を予測するのに使うことができます。モデルの開発に成功すれば、中央銀行が効果的な金融政策を実施するために活用されるかもしれない、とRahmanさんは説明します。
「まだ初期の段階です。……でも、いま取り組んでいるモデルを『マクロ計量経済モデル バージョン1.0』と呼んでいます。これから発展させ、改良していくものだからです」とRahmanさんは言います。「仕事に役立つものを作りたい、というのが発想の原点です。ですから、私たちが打ち出したい政策のシミュレーションに使えるようになればと思っています」
3歳と5歳の2人の娘を持つ母として、勉強と子育ての両立は大変なこともあります。しかし、家事を分担してくれる協力的な夫と保育園のおかげで、両立できているとRahmanさんは言います。
「日中は娘たちが保育園にいるので、午前9時から午後5時までは勉強に集中できます。それで足りないときも、子どもたちが寝た後に勉強を続けられます」と彼女は説明します。「もちろん、人間ですから疲れを感じることもあります。でも、修士号取得というこの機会を得られた私は幸運です。この絶好の機会を無駄にはできません」
平日は子どもたちと過ごせる時間がわずかしかないため、Rahmanさんは週末には必ず子どもたちのために時間を充てるようにしています。現在は、東京・お台場エリアにある日本学生支援機構の宿舎に住んでいます。公園や博物館など、小さな子ども連れの家族が楽しめるスポットが近くにたくさんあるため、人々が移動を控えるよう求められるパンデミックの時期において、このウォーターフロント地区は最高の場所だと彼女は言います。
「お台場には博物館など、訪れる場所がたくさんあります。娘たちは未来館(日本科学未来館)が大好きです。船の科学館にも行きました」とRahmanさん。
2021年秋にGraSPPを修了した後、Rahmanさんは新たな知識を携えてインドネシアに戻り、インドネシア銀行での仕事を再開する予定です。どの部署に配属されるかはまだ分かりませんが、金融システム部門であればと期待しています。
「学びは生涯続くプロセスだと信じています。そして、ここでの1年半で、これまで本当に多くのことを学びました。……いまでは、学んできたテーマをより良く理解できるようになりました。それに加えて、日本での暮らしは、母国に持ち帰ることのできる気づきを与えてくれました」とRahmanさんは語ります。「ここで得たすべての知識と経験をもって、インドネシア銀行とインドネシア経済にもっと貢献できればと思います」
(東京大学ウェブサイト「Discover Our People」掲載記事より)