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Challengers for Changes
中山 桃子
掲載日 2026.05.08 公共政策大学院

コンサルからGraSPP、SIPA、そして国連へ:「タテマエ」の構築を通じた社会変革

中山 桃子 Momoko Nakayama

出典 東京大学 公共政策大学院|GraSPPers Voice に掲載された記事を転載したものです。

大学院進学のきっかけ:個人的なことは政治的なこと

学部時代よりジェンダー格差に関心があり、新卒で入ったコンサルティング会社ではDEI (Diversity, Equity, and Inclusion) コンサルティングを通じて組織風土改革等に従事していた私ですが、企業や行政等、あらゆる領域においてジェンダー格差を生み出している要因を掘り下げ、それらを解消するための戦略立案・制度導入に携わる中で痛感したのは、「個人的なことは政治的なこと」であるという事でした。

例えば男女賃金格差。G7諸国の中でもっとも格差が大きい日本における男女賃金格差*1は単なる個人間の「能力差」だけでは説明できず、背景にあるのは、女性が低賃金の職業に集中しやすい「性別職種分離」や、女性が非正規雇用等に代表される不安定な雇用形態に集中しやすい「性別雇用形態分離」、また女性に家事・育児等の無償ケア責任の負荷が偏る事で長期的な就労が困難になる「性別役割分担意識」の影響等、「社会的(構造的)」なパワーバランスである事が、多数の研究でわかっています。

男女賃金格差だけでなく、仕事を通じて向き合う事が多かった意思決定層における男女比の差や職場でのハラスメント等、語るに足らずと思われがちな「個人的」な悩みや辛さも、その要因を分析していくと、個々人が抱える課題ではなく、社会構造に起因する問題に繋がっている事が多い、という事に気づき始めました。だからこそ、一人ひとりの、そして特に社会において弱い立場にある女性をはじめとするマイノリティの生きづらさの解消を「個人の努力」や「自己責任」にぶつけるのではなく、「社会の仕組み」にぶつけていった方が根本的な解決になるのでは、と考えるようになり、その「社会の仕組み」を形作っている「政策」の立案方法を学びたい、と思った事がGraSPPへの進学に興味をもったきっかけです。

GraSPP/SIPA双方での学びを通じて得たもの:社会変革のために必要なのは「タテマエ」を変えること

在学中は米コロンビア大学国際公共政策大学院(SIPA)に留学するダブル・ディグリープログラムに参加する機会もいただけ、一年目はGraSPPにて政治・経済・行政・法等、関連する複数領域の基礎知識を身につけながら、それらを基盤にエビデンスに基づいた政策立案プロセスやステークホルダーの巻き込み方等、政策形成の一連の流れを学んだ上で、二年目はSIPAにて専門であるジェンダー視点をもって政策を立案する「ジェンダー観点の主流化 (Gender Mainstreaming)」のアプローチを中心に、学びを深める事ができました。

二年にわたる大学院での学びを通じて私がもっともハッとした気づきは、GraSPPで出会った友人に紹介してもらった本*2に書かれていた「社会変革とはホンネの変化ではなく、タテマエの変化だ」という一文と、SIPAにて修論のアドバイザーを務めていただいた教授にかけてもらった「『わかる』という状態にも『理解』『納得』『共感』の三段階があり、最初から『納得』や『共感』を目指さなくてもいい。政策とは『理解』を促すことで社会全体での共通認識を生み出すもの」という言葉でした。

それまで「社会変革」とは法律・制度等を通じて「タテマエ」を変えるだけではなく、より多くの人に納得・共感してもらい、一人ひとりの考え方やマインドセット等の「ホンネ」までを変える事、と思っていた私にとっては目から鱗でしたが、人のホンネを変えるのは至難のワザだからこそ、まずは政策を通じてタテマエを変えることで、徐々にホンネも追いつくように促す、というアプローチは革新的でもあったと同時に、とてもしっくり来る進め方であると感じました。

法律や公共政策、行政の制度等は、「このような社会で生きていきたい」という一人ひとりの願いの総意であるべきで、社会には様々な人が存在するからこそ、できるだけ多くの人の生きづらさを取り除く仕組みを、政策や制度を通じて作っていきたいというのが、大学院を経た今、思う事です。そして、個々人の生きづらさを生み出している不平等や格差を、政策を通して解消し、「タテマエ」をより公平にする事が、いずれ個々人の中にある差別感情等の「ホンネ」を少しずつ変える事にも繋がるのでは、と思っています。

国連(UN Women)での仕事:国際規範という「タテマエ」の構築

GraSPP/SIPAを修了してから二年経った今、私はJPO (Junior Professional Officer)派遣制度*3のもと、スイス・ジュネーブにあるUN Womenという国連機関にて、ジェンダー政策アナリストとして勤務しています。主な仕事内容は、人権理事会 (Human Rights Council) *4における協議や、理事会で採択される決議案にジェンダー視点や女性の権利に関する課題が盛り込まれ、検討されるよう国連加盟国に働きかけるアドボカシーです。

国連での仕事、というと途上国での開発支援等がよく知られているかと思いますが、実は国連には国際法や条約を制定し、世界共通認識、つまり全世界で共有し合う「タテマエ」を構築する、という役割もあります。この「タテマエ」の構築は国連では ”Normative Work” と呼ばれるのですが、私はGraSPPやSIPAで学んだ事を生かして、ジェンダー平等の実現に向けた国際法や国際規範という「タテマエ」の策定に微力ながら携わらせてもらっており、非常にやりがいを感じながら毎日働いています。

おわりに:自分の中のモヤモヤを大切に

政策立案に携わる者が考えるべきなのは、格差や不平等が残る社会において、理不尽な経験をした人がどう生き延びるかではなく、この理不尽で不平等な社会をどう変えていくか、のはず。

コンサルタントとして日本企業におけるジェンダー平等の推進に関わっていた時も、国連職員として国際法制定に向けて働く今も、自分の中で大切にしているのは「個人的なことは政治的なこと」という視点です。この視点はジェンダー課題を扱う際はもちろんですが、ジェンダーに限らず、ありとあらゆる社会課題と向き合う上でとても大切なのでは、と感じています。

私は非常に幸運な事に幼い頃からふと感じていた「あれ?」という違和感を学部、社会人、そして修士時代に思うがまま追求することができたからこそ、今や自分の指針ともなっている「個人的なことは政治的なこと」という視点に出会うことができました。私が、ずっと自分の中にあった小さな小さな違和感を、追求し続けることができたのは、それを理解し、応援してくれた周りの支えがあったからこそではありますが、もし、この記事を読んでくださっている方の中にも「あれ?」と思う違和感をお持ちの方がいれば、その小さなモヤモヤに封をするのではなく、GraSPPにて追求してみる、という挑戦を一つの選択肢としてご検討いただければ幸いです。私でよければ、応援団長として、その挑戦を心から応援させていただきます。

GraSPP修了式にて
GraSPP修了式にて
SIPAの卒業式にて
SIPAの卒業式にて
パリ政治学院・LSE・GraSPPからのダブル・ディグリー生と
パリ政治学院・LSE・GraSPPからのダブル・ディグリー生と
国連の人権理事会にてステートメントの読み上げ
国連の人権理事会にてステートメントの読み上げ

(※中山さんの留学レポートはこちらよりご覧いただけます。)

【付記】

本稿は筆者の個人的見解であり、所属機関の公式見解を示すものではありません。

【注釈】

*1:OECD, Gender Wage Gap, 2024

*2:上野千鶴子、鈴木涼美『限界から始まる : 往復書簡』幻冬舎、2024

*3:各国政府の費用負担を条件に国際機関が若手人材を受け入れる制度で、日本も外務省を含む複数の省庁が、国連をはじめとする国際機関に派遣を実施しています

*4:世界各国における人権侵害の監視、調査、改善勧告等を行う国連の政府間機関

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