期待と緊張を胸に、私は26時間のフライトでペルーのリマへ向かいました。東京から文字どおり地球を4分の3周する旅です。この「APEC Voices of the Future(VOF)」というプログラムについては好意的な感想を数多く耳にしていましたが、正直なところ少し懐疑的でした。ほかの国際学生会議とどれほど違うのか、そして参加者に「人生が変わるほどだ」と思わせる要因はいったい何なのか、と。
APEC VOFは主に学生代表で構成されていますが、文化交流や共同作業を主眼に置く、よくある「学生会議」ではないことにすぐに気づきました。そうしたものは氷山の一角にすぎなかったのです。VOFの代表として、私たちには素晴らしい機会が数多く提供されました。20以上のエコノミーから大統領、首相、ビジネスリーダーが出席するAPECビジネス諮問委員会(ABAC)やAPEC CEOサミットへの参加もその一つです。
私にとってのハイライトの一つは、国際通貨基金(IMF)専務理事のクリスティーヌ・ラガルド氏による、女性のエンパワーメントについての基調講演でした。エマ・ワトソンの「HeForShe」ムーブメントやミシェル・オバマの「Let Girls Learn」イニシアチブなど、著名人が率いるキャンペーンとともに、女性のエンパワーメントへの世界的な関心は高まっています。しかしラガルド氏のスピーチは、女性の持つ可能性——これまでの年月でどれほど多くのものが見過ごされてきたか、そしてジェンダー平等の実現を加速させるために、いまの世代である私たちに何ができるか——を、心から確信させてくれるものでした。
安倍首相のウーマノミクスの取り組みについて、より多くの女性が継続的に労働市場に参入すれば日本のGDPは0.4%成長する可能性があるという、彼女の前向きなコメントを聞けたのは嬉しいことでした。家計の第二の稼ぎ手に対する課税政策や家族支援政策といった現行の財政政策に関する彼女の洞察と世界各国の事例は、それぞれの国が直面している利点と欠点の双方を見せてくれました。たとえば彼女は、チリでは働く母親たちの労働時間の延長を支えるために子どもの就学時間が延長された、という例を紹介してくれました。日本人女性の一人として、このような励みになる事例は、働く女性のためにさらなる前進が可能だという楽観的な見通しを与えてくれます。とりわけ日本は現在、保育施設の不足という大きな問題に直面しているからこそ、彼女のスピーチは、私自身もこの能動的な変化の一翼を担わなければならないと気づかせてくれました。 未来に変化をもたらせるかどうかは、いまの世代の一人ひとりにかかっています。とりわけここ数年大きな注目を集めてきた、いわゆる「持続可能な」環境をつくるのは、私たち自身なのです。
世界中から集まった活動的で聡明な代表たちと一堂に会する機会は、本当に得がたいものでした。私は宣言文の起草委員会のメンバーでもあったので、質の高い成長、人間開発、地域統合についての見解をめぐって、各国・地域の代表と議論を交わす機会がありました。将来世代のための持続可能な開発という根底にある目的や目標は同じでも、優先順位や視点、アプローチは大きく異なっていました。 先進国である日本の視点からは、女性のエンパワーメントや多様性の推進を含む、第三世代の人権に焦点が当てられがちです。一方、途上国からの代表たちは、平等な教育や医療といった第二世代の権利を強調する傾向がありました。この議論を通じて、コミュニケーションこそが決定的に重要なのだと認識することができました。
もちろん、コミュニケーションは人と個人的に親しくなるための原動力ですが、学術的なレベルにおいても、徹底したコミュニケーションと踏み込んだ説明がなければ誤解が生じます。この経験は、根底にある価値観や社会環境が、概念の理解され方や内面化のされ方を枠づけているのだと実感させてくれました。課題に唯一の正解はありません。だからこそ、いっそう面白いのです。今年この素晴らしいイベントに参加できたことを幸せに思い、感謝しています。APEC VOF 2016の日本代表として過ごした1週間で得た思い出と学び、そして新しくできた友人たちを、これからも大切にしていきます。